渡辺えり、70歳の新たな舞台挑戦と「怒り」の創作力
渡辺えり、70歳で見せる新たな挑戦と創作の源泉
日本の舞台芸術界で長年にわたり活躍してきた渡辺えりさんが、70歳という節目を迎えました。彼女は俳優だけでなく、劇作家、演出家としても名を馳せ、これまでに多くの社会派作品を手掛けてきました。そんな渡辺さんの創作の原動力には、意外にも「怒り」という感情が深く根付いているそうです。
渡辺さんの人生は、物語や歌に囲まれた幼少期から始まりました。山形県で生まれ育ち、小学5年生のときにはすでに自ら脚本を書き、演出を手掛けるなど、早くからその才能を発揮していました。18歳で上京し、舞台芸術学院に入学した彼女は、貧しい学生生活の中で次第にその腕を磨いていきます。そして23歳で劇団を結成し、以後も精力的に活動を続けています。
怒りが生む創造力
渡辺さんが創作を続ける「根幹」は、世の中がなかなか変わらないことへの怒りだと語ります。彼女は世界平和を夢見ながらも、紛争や戦争が絶えない現実に対して苛立ちを感じているそうです。この怒りが、彼女の作品に強いメッセージ性を与えていると言えます。渡辺さんは「誰だって戦争は嫌だ。それを誰かが言い続けないといけない」と語り、自らの作品を通じてその声を届け続けています。
さらに、渡辺さんはその怒りをユーモアや娯楽へと昇華させることも得意としています。彼女は「社会問題を訴えるテーマではなくても、その根底には反戦のメッセージがある」と述べ、芸術や娯楽を通じて人々を楽しませること自体が反戦の活動だと考えています。彼女の作品には、観る人々に笑いを提供しつつ、平和を願う思いが込められているのです。
挑戦し続ける70代の舞台
渡辺さんは、70代になった今でも新たな挑戦を続けています。今年の2月には新派喜劇公演『三婆』に出演し、演技だけでなく演出や脚本にも力を注いでいます。『三婆』は、昭和の名作として知られる有吉佐和子氏の小説を原作にし、女性たちの葛藤や成長を描いた作品です。渡辺さんはこの作品を通じて、現代社会に通じるテーマを見出し、観客に新たな視点を提供しています。
また、渡辺さんは「若い頃にやり残したことを実現したい」と意気込み、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。彼女は「自分が書いて演出して演じるのは、70代前半しかできない」と考え、夢を詰め込んだ公演を次々と企画しています。その中には、映画制作や新作歌舞伎の挑戦も含まれており、彼女の創造力は年齢に関係なくますます広がりを見せています。
独自の役づくりと現代社会へのメッセージ
渡辺さんは役者としても、強烈なキャラクターを演じることで知られています。『三婆』で演じるタキ役は、60歳を過ぎた独身の「お嬢様風処女」という強烈なキャラクター。彼女は、この役を「現代社会に通じる女性の葛藤」を描くものとして捉えています。タキのキャラクターは、耳年増でありながらも純心で、愛を求めつつお金に対してもがめついという複雑な内面を持っています。
渡辺さんはこの役を演じるにあたり、チェーホフの『桜の園』に登場するラネーフスカヤ夫人や、吉屋信子の少女小説『花物語』のキャラクターを参考にしています。これにより、タキの「乙女チックで没落した貴族」というイメージをより鮮明に描き出しています。
渡辺えりさんは、70代を迎えてもなお、その創作欲求に満ち溢れています。彼女は「やりたいことはたくさんある」と語り、古希を迎えた今、ますますその活動の幅を広げています。彼女の作品は、これからも多くの人々に感動と考えるきっかけを与え続けることでしょう。
[鈴木 美咲]