ロバート・パティンソン主演『ミッキー17』の複雑な世界観に迫る
ロバート・パティンソンが体現する『ミッキー17』の複雑な世界観
映画『ミッキー17』は、ポン・ジュノ監督が手掛けた最新のSF作品で、主演を務めるのはロバート・パティンソンです。この作品は、過酷な労働環境に置かれた若者ミッキーが、何度も死んでは生き返るという特殊な設定で物語が進行します。そんな中、パティンソンは役作りの参考として意外な人物を挙げました。それは、過激なスタントで知られる「ジャッカス」シリーズのスティーヴォーです。
『ミッキー17』はエドワード・アシュトンの小説「ミッキー7」を原作としていますが、そのタイトルが示すように、主人公ミッキーは何度も死を経験します。しかし、映画ではその数が「ミッキー17」に増えています。ポン・ジュノ監督は、ミッキーの死というテーマをさらに深く掘り下げ、観客に強い印象を与えることを狙いました。監督の意図について、プロデューサーのチェ・ドゥホ氏は「監督は彼の死をもっと見せたいと考えていた」と語り、ポン・ジュノ監督のユニークなアプローチを示しています。
人間コピーという現代社会のメタファー
この映画では、人間をプリンターで複製する「human printing(人間コピー)」というコンセプトが用いられています。この設定が、現代社会における労働者の搾取を象徴しているのは明らかです。ポン・ジュノ監督は「ミッキーというキャラクターを通して、人間が無価値とされる世界を描きたかった」と述べています。現代の多くの若者が直面する経済的・社会的なプレッシャーと無縁ではないこのテーマは、多くの観客に共感を呼ぶことでしょう。
映画の中でミッキーは、何度も死を経験しながらも再び目を覚ますことで、その存在価値を問われます。この設定は、労働者が単なる駒として扱われる現実社会の縮図ともいえるでしょう。ポン・ジュノ監督は、そんな抑圧的なシステムの中で必死に生き抜こうとするミッキーに焦点を当てています。
ロバート・パティンソンの役作りとスティーヴォーの影響
ロバート・パティンソンは、ミッキーという難解な役を演じるにあたり、「ジャッカス」のスティーヴォーからインスピレーションを受けたと語っています。彼はスティーヴォーのインタビューを通じて、危険なスタントをこなす際の彼の心境に触れることで、ミッキーのキャラクターに通じるものを見出したのです。パティンソンは「ミッキーは地獄のような状況に置かれても文句を言わず、むしろ淡々と日々を生きている」と述べ、そこにスティーヴォーとの共通点を感じたと話します。
その結果、パティンソンの演技には、ミッキーの悲壮感だけでなく、どこかしら達観した雰囲気が漂います。これにより、観客は単なる犠牲者としてのミッキーだけでなく、自らの運命を受け入れつつも抗う姿を見て取ることができるのです。
ポン・ジュノが描く未来のビジョン
ポン・ジュノ監督の作品は、しばしば社会的なテーマを強調していますが、『ミッキー17』も例外ではありません。本作では、未来のテクノロジーが人々の生活をどう変えるのか、そしてそれがもたらす恐怖と希望についても描かれています。監督自身も「テクノロジーには私たちの生活を変える力があるが、同時に恐怖をも呼び覚ます」と警鐘を鳴らしています。
現実と未来の間に立ち、過酷な労働環境や技術の進化がもたらす影響を鋭く描く『ミッキー17』。この作品は、単なるSF映画にとどまらず、現代社会に対する深い洞察とメッセージを提供しています。観客は、ミッキーの苦悩を通じて、現実の世界における自分たちの立ち位置について考える機会を得ることでしょう。
映画『ミッキー17』は、観る者に現実とフィクションの境界を越えた新たな視点を提供し、社会的な問いを投げかけます。ポン・ジュノ監督とロバート・パティンソンが紡ぐこの物語は、現代に生きる私たちにとって、重要なメッセージを持つといえるでしょう。
[山本 菜々子]